今回は古い家を店舗として活用するメリット、デメリットについて書かせていただきます。
近年話題となっている空き家問題の対象となる空き家の多くは法定対応年数を超過した古い家です。
家財が残っている、倉庫として使っている、親戚がたまに泊まりに来る等々、空き家となっているには様々な理由がありますが、建物が古すぎて再利用するなんて不可能、使いたいと思う人なんているわけない、売っても二束三文、という、古いが故のネガティブな理由から活用を躊躇される方も多いと聞きます。
一方、古民家カフェという言葉に代表される様に、店舗として使うことを考えると建物が古いことは必ずしもマイナスになるとは限りません。
なぜなら、住むことを目的とするとマイナスの要素になりがちな「古い」ということが、店舗として活用する場合にはプラスの要素である「レトロな雰囲気」になり得るからです。
コテンポはそういった古いが故に深まる価値に着目して、古い家をレトロで特徴のある商いの場として活用するサポートを生業としています。
今回は、古い家を店舗として活用するにあたってのメリットに加え、考え得るデメリットについてもきちんとお伝えしていきたいと思っています。
古い家を店舗として活用するメリット
①古いことをレトロという価値にすることができる
②他には無い特徴を持った建物になる
③所有者にとっても入居者にとっても経済的にお得な取組みである
では、順を追って説明していきます。
①古いことをレトロという価値にすることができる
冒頭にも説明した通り、店舗として利用する場合、古いということは必ずしもマイナスの要素とはなりません。デザインや発信の方法によってはレトロな雰囲気がある、アジがあるといったプラスの価値に転じることができる可能性を秘めています。
どんな建物にも新築されてから今までの歴史があります。一見普通の家でも、よくよく見てみるときらりと光るレトロな魅力が存在します。扉や壁材、使い込まれた床や構造材としての柱など、それらに着目し、磨きあげることでレトロな価値を見える化する。そうすることで、古さはレトロな価値に転じ、古いからこそ深まる価値を生み出すことができます。
しかもこの価値は、古くなっていくことでさらに深まっていくので、年月が経っても建物の価値が減らないというメリットもあります。
②他には無い特徴を持った建物になり得る
一般的に店舗の営業が可能な建物というのは、最初から店舗用に作られているケースがほとんどです。街中のビルだったり、近所のケーキ屋さんだったりとその形はまちまちですが、それらは建物の外観からして私たちに店舗を連想させるように作られています。言わば店舗用の建物です。
一方、元住宅である建物を改装して店舗を行う場合はどうでしょうか。一見して住宅、ですが、中に入ってみると雰囲気のあるカフェや古着屋、美容室が営まれています。もしかして、店舗の場所を見つけるのは大変かもしれませんが、SNS時代の昨今、そのインパクトや店舗としての特徴は他の建物にはない魅力になり得ます。つまり、元々店舗用に作られた建物と違い、元住宅で店舗を営んでいるというユニークさや取組み自体が価値になり得るということです。
③所有者にとっても入居者にとってもお得な取組みである
古い建物を店舗として活用するにあたって、自ら店頭に立って商いを行う人は比較的少ないと思います。必然的に店舗を営みたい人へ建物を貸し出しをするケースが多くなります。
古い建物を店舗として活用することにあたっては、この所有者と入居者双方に経済的なメリットが生まれます。それは具体的にどういったメリットなのか、以下で説明していきます。
◎住宅としては高いけど、店舗としてはお得な家賃
基本的に不動産会社が家賃を決めるときには、その建物のスペックと周辺の類似物件とを比較して家賃を決めます。住宅であれば住宅と店舗であれば店舗と、です。そして多くのケースで同じような立地、面積であれば店舗の方が高い家賃設定がなされています。これには様々な理由がありますが、店舗の場合は、そこで行われるであろう生産活動の結果得られる収益に着目して家賃を算出しているからだと言われています。ここなら〇〇円くらい売り上げが見込めるだろうからいくらまでなら家賃を支払うことができるだろう、という考えです。
古い建物を店舗として利用する際は、この住宅と店舗の価格ギャップの間に価格を設定するケースが多く(住宅は10万円、店舗は20万円が平均的な家賃設定のエリアなら15万円といった感じです)、結果、住宅としては高いけど、店舗としては安い家賃設定が可能となります。所有者にしてみれば住宅として貸し出しするより高い家賃を設定することができ、入居者にしてみれば周辺の店舗用物件に比べ安い家賃で(かつレトロで特徴的な建物を)建物を借りることができ、双方にお得な仕組みとなります。
昨今、SNSの普及により、立地による集客のハードルは徐々に下がりつつあります。以前であれば駅前、一階路面店等の好条件が必須であった業態でも、特徴的な商品と店舗作りができれば建物が住宅街の中にあってもお客さんが来てくれる時代になりました。そのことにより、住宅地の中に建っている一軒家を店舗として利用することが多くの人に取って現実的な選択肢となってきたように思います。
◎工事負担範囲の分担
一般的に住宅として建物を貸し出す場合、内装や水回りの更新は所有者の責任になります。入居者による原状回復義務はありますが、空き家となっていた古い家を貸し出すにあたっては初期投資としてそれなりの費用負担が発生するケースが多いのが実情です。
一方、店舗の出店を検討している事業者の多くは、建物の内装工事を自らの負担で行うことを前提としています。つまり、住宅の場合は所有者の責任とされていた貸し出し時の内装、水回り更新工事が不要となり、入居者の工事範疇となるということです。このことによって所有者の経済的負担を大きく軽減させることができます。
もちろん、構造上の不具合など建物として最低限手を入れるべきところはあるかもしれませんし、高い家賃を希望するのであれば事前にある程度の工事を必要とするケースもあると思います。ですが、全てを所有者が負担するのではなく、入居者とその負担を分担できるという点においてもお得な仕組みであるということができます。
どうでしょうか?
古い家を店舗として活用するメリットは意外に多いですよね。
さて、ここまでは古い家を店舗として利用する際のメリットを説明してきましたが、当然ながら他方にはデメリットも存在します。これからはそのデメリットについてもきちんと説明をしていきたいと思います。
古い家を店舗として活用するデメリット
①構造的な調査、補強が必要なケースがある
②確認しないで用途の変更を行うと違法状態となることがある
③明確な物差しがない
こちらも、順を追って説明していきます。
①構造的な調査、補強が必要なケースがある
古い建物を活用する際によく聞かれるのがこの点。
「この建物ってまだ使えるんですか?」
やはり、気になりますよね。
結論から言うと、その建物の状態とどのくらいの期間その建物を活用するかによって判断は変わってきます。
建物が古くて状態が良くない時には、基本的に活用にあたって事前に建物の調査をおすすめしています。これは目視で行う簡易的なものから専門家に費用を払って行うインスペクション(住宅診断)といった本格的な調査もあります。専門家に依頼する場合は費用がかかりますし、調査の結果次第では建物の活用が難しいという判断になるケースもあります。
また、建物の状態とは別に、建物の耐震性を調査することもあります。これは建物の活用を長期にわたって行うことを想定する場合に行う調査で、建物の現状の耐震性能の把握に加え、現在の法律に適合した耐震性能まで建物の強度を向上させる為に必要な工事までを把握することができます。
古い建物の活用にあたっては、事前に必要な調査を行い、結果、傷んだ箇所の補修や耐震性の向上の為に一定の費用が必要になることもあり得ます。
悩ましいところですが、実際のケースでは建物の補修、補強に必要な費用とそこから想定する収入を天秤にかけて建物の活用を判断するケースが多いです。
②確認しないで用途の変更を行うと違法状態となることがある
基本的に建物は建築時に使用用途が定められています。住宅は住宅、店舗は店舗として公に届け出がされており、勝手に用途を変更することは法律で禁じられています(ただし特例はあります)。その為、建物の使用用途を変更するにあたっては事前に関係する法律を確認し、この取り組みが違法にならないかを判断する必要があります。
事前の確認をせずに建物の使用用途を変更すると建物が違法状態となることもあり、最悪の場合、建物の使用停止を勧告されるケースもあります。
建物の活用にあたっては事前に関係法規の詳細なチェックが必須となります。
③明確な物差しがない
近年、古い家を店舗として活用するケースは増えてきてはいますが、まだその事例自体は少数です。元の用途と同じ用途で活用する場合は周辺の類似物件との比較検討が容易ですが、古い家を店舗として使った場合の価値(賃貸の場合は家賃)を正確に測るのは容易ではありません。
その為、古い建物の活用にあたってはその価値を的確に判断することができる不動産会社との協業が重要になります。どんなにユニークで素敵な建物でも、評価されなくては意味がありません。真価を見極めることができず安い価値設定しかできないケースはもちろん、所有者が適正な基準を著しく超過した価値を希望した時には、それを指摘し適正な価値を提案してくれるような会社と協業することができれば理想的です。
いかがでしょうか。
ここまで見ていただいた通り、古い家の店舗活用にはメリットもある一方デメリットも存在します。
改めてまとめてみます。
●メリット
①古いことをレトロという価値にすることができる
②他には無い特徴を持った建物になる
③所有者にとっても入居者にとっても経済的にお得な取組みである
●デメリット
①構造的な調査、補強が必要なケースがある
②確認しないで用途の変更を行うと違法状態となることがある
③明確な物差しがない
メリットはどの建物にも適用できる普遍的なものです。一方、デメリットの多くは適切な知識や技術があることでクリアできることも多いと思います。専門的な知識がある人は自分で取り組んでみるのも一つですし、知識がない人はパートナーとなる個人や団体と協業することで建物の価値をより高めることができると思います。
古い家を店舗として活用するという取組みは比較的最近の取り組みの為、まだ広く知られてはいませんが、空き家問題や働き方の多様化といった世の流れからいって同様の取組みはこれからどんどん増えていくことと思います。
自分が関係する古い家の活用を検討する際には、建物の価値を高め愛着をもって長く使って行くための選択肢として、店舗としての活用を一度検討してみてはいかがでしょうか。